プロフィール 太田勲(おおたいさお)
1975年6月28日生まれ。
千葉県習志野市出身。
高校卒業後、一時家業を手伝うも、絵を志し、22歳の時、千代田工科芸術専門学校イラストレーション課に入学。卒業後、グラフィックデザイン事務所を経てCGパーサーとして現在に至る。趣味はバスケット・ボール。地元のチームに所属し、ほぼ毎週末汗を流しているとか。

 絵は物心ついた頃から描いていました。自然と手を動かしていることが多く、落書き三昧。それは中学、高校となってからも変わりなかったのですが、といって将来、絵で食って行こうとは露ほども考えませでした。だから高校を卒業する時も、進路指導とかで絵のことが話題になることもなかったし、それどころかまっとうに就職しようとも考えなかったですね(苦笑)。
 でも遊び暮らすわけにもいかないので、実家の寿司屋を手伝っていました。今から考えるとこの時期は大事だったかもしれません。何というか、絵に向かう気持ちが醸成されていったというのか、4年程実家を手伝っていたんですが、さすがにそろそろ何とかしないといけないと思いまして、就職を真剣に考えだしたんです。
 何を武器にして勝負していこうか。そう自問した時、やはり自分には絵しかないな、即座にそう思いましたね。で、少し遅いスタートでしたが22歳で専門学校に行き、本格的にイラストの勉強を始めました。学校に通 っている時は課題を与えられてそれこそ描きまくりの日々でしたが、いざ、就職探しとなった時、現場のレベルの高さに、唖然とさせられました。実際、クラスを見回しても、仕事で絵を描けるというのはせいぜいが2、3人で、正直就職は難しいかなと思いました。だからと言ってへこたれるわけにもいきません。必死になって探した結果 、何とかグラフィックデザインの事務所に潜り込むことに成功しました。しかしそこには色々と事情があって3ヶ月しかいられませんでした。現在の事務所は、学校の先輩の紹介だったんですが、入れてほんとラッキーでした。
 現在、パースを手掛けていますが、当初は手描きでした。1年位手描きで仕事をしていましたが、その後、需要があるということでCGにシフトさせてもらいました。
 デザイン事務所にいる時、多少コンピュータをいじった経験はありましたが、CGに関して知識はゼロ。誰も教えてくれないし、もう独学で必死に勉強しましたよ。CGでパースを描くようになって数年がたちますが、最初は随分とまどいましたね。イラストは手を自由に動かして描くことが多いですよね。定規を使うなんてまずありませんでしたし、画面の大半を線画的に描き込んでいくなんて経験は初めてだったんです。
 僕の場合、今では10割、CGを使いますが、手描きのもつ暖かみのある質感というのか柔らかいタッチをCGで出すことは本当に難しいですね。もちろんこれは、手描きの方が優れてパースに向いているということではありません。硬質なイメージではCGに分があるし、大事なのは、クライアントが要求するイメージをいかに具現化するかですから。目指す最終形は同じですがアプローチが異なるということですね。たとえば、手描きは白紙の上に重ねていく作業ですよね。いわば、プラスの作業。対してCGは行ったり来たりできるというかプラスマイナスの作業が手描きに比べて容易にできるわけです。ですから制作する内容にもよりますが、手直しやクライアントがイメージする内容に相当な精度で応えていけると思います。しかし、逆にいえば、無機質な絵になりやすいとはいえますし、人の温もりを感じさせるようなものを描くには相当な技量を要します。
 もちろんこんな技量は一長一石に身に付くものではありません。それに、たとえテクニックに優れたとしても、パース全体の善し悪しを左右する絵心がなければ、本当の意味での秀逸なパースというのは出来ないだろうと思うのです。
 私自身、まだまだ駆け出しで仕事に追われる日々ですが、それでもこの頃では少しは自分を見つめることができるようになってきたというか、課題みたいなものが見えてきました。イメージを出す仕事なので、クライアントが持つイメージを超えるようなものをということで、つい精緻さを追い求めがちになります。しかし、逆にそれが全体の雰囲気を損なったり、メリハリの付け方というかバランスの取り方がまだまだ未熟なのです。これを自分なりに解釈させてもらえば、演出不足となります。
 パース、とりわけCGで制作したものは似たものに成りがちですが、それを印象付けていくのはやはり演出力ということだと思います。これはマクロ的な視点でいえば、絵を構築していく表現力ということになります。一方、ミクロ的な視点でいえば、光の使い方と捉えています。端的にいうと、舞台の照明というかスポットライトの当て方ですね。つまり陰影の付け方です。仕事をしていて、偶然うまくいく場合があり、それはそれで嬉しいのですが、やはりプロである以上、使いこなせる“演出”ができないようではいけないと思うのです。
 この辺りが今後の自分の課題ですが、克服していくには、抽象的な言い方になってしまいますが、やはり絵心を育てていくしかないと考えています。それにはとにかくバンバン仕事をこなしていくこと。日常の仕事のフィールドの中で獲得していく以外に道はないと思っています。

 
こ愛用のアップルコンピュータ。
月産40枚強のパースがここか ら生まれます。